7. 記憶と亜鉛のもがたり

記憶の分子メカニズムと関係するシナプス後肥厚にはZn2+が必要なため、シナプス前ニューロンから放出されるZn2+、細胞外液に含まれるZn2+は、グルタミン酸によって活性化されるシナプス後膜のZn2+透過型GluR2 欠損AMPA受容体(Zn2+とCa2+を透過させるイオン透過型グルタミン酸受容体のサブタイプ)を通過し、シナプス後肥厚などに利用されます。シナプス前ニューロンからグルタミン酸とともにZn2+が放出されないシナプスでは、シナプス後ニューロン内のストアからZn2+が放出されてシナプス後肥厚などに利用されます。シナプス可塑性には、NMDA受容体(イオン透過型グルタミン酸受容体)などを介した細胞外Ca2+流入による細胞内Ca2+シグナルが必要でありその重要性はよく知られています。

一方、Zn2+を必要とするタンパク質は極めて多く、細胞内Zn2+シグナルも不可欠です。細胞内Ca2+シグナルはセカンドメッセンジャーとして、細胞外からの情報であるグルタミン酸シグナリングの伝達です。これに対して、細胞内Zn2+シグナルはシナプスを構造的・機能的に変えるために利用されます。したがって、細胞内Zn2+シグナルが不足すればシナプスを構造的・機能的に変えることができず、記憶が形成されなくなります。また、形成された記憶を維持するためにはアクチン重合などを介してシナプス後肥厚が維持される必要があり、細胞内Zn2+シグナルが不足すれば記憶は消失することもあります。

つまり、記憶を獲得、維持、想起するためには細胞外から細胞内にZn2+が供給されることが必要です。また、海馬には神経幹細胞が存在し、神経新生が記憶に関与しますが、神経新生にも亜鉛は不可欠です。

ポイント 記憶を獲得、維持、想起するためには細胞外から細胞内にZn2+が供給されることが必要です