8. 強固な記憶には多くの亜鉛が必要?

学習時に周辺環境からの刺激により青斑核ノルアドレナリン神経が活性化させると、海馬でのグルタミン酸作動性神経によるシナプス可塑的変化(長期増強)が促進されます。青斑核ノルアドレナリン神経活性化は海馬、扁桃体などで細胞外Zn2+の利用を促進させます。そして、学習時ならびに情動体験時の周辺環境を含めた情報は、青斑核ノルアドレナリン神経活性化を介して視床下部―下垂体―副腎皮質系の活性化につながります。副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドは血液を介して血液脳関門を通過します。脳内ではグルココルチコイドはその細胞膜受容体を介し、グルタミン酸神経終末を興奮させ、細胞外へのグルタミン酸開口放出を促進させます。Zn2+シグナルからみると、ノルアドレナリン―グルココルチコイドシグナルは神経細胞へのZn2+供給を促進し、記憶に関与します。

すなわち、適度な緊張下、環境豊かな条件下では、青斑核ノルアドレナリン神経活性化、グルココルチコイド分泌増加、細胞外グルタミン酸シグナルと連携する細胞外Zn2+の神経細胞への供給により記憶が促進させます。また、海馬では幹細胞からのニューロン新生も促進されるため、この促進は海馬が関係する学習・記憶の向上と連動します。さらに、恐怖・不安などの強い情動体験に関する記憶は長く残りますが、そのような記憶にはより多くのZn2+が要求されると考えられますが、これはシナプスの構造的・機能的変化のためです。

ポイント 恐怖などの強い情動体験にも亜鉛が関与する