16. メタロチオネイン合成でアルツハイマー病の予防!

メタロチオネイン(MT)には重金属毒性の解毒、活性酸素消去などの作用があります。神経細胞に対する保護作用も古くから知られていました。MTには4種類のアイソフォームがあり、MT-IとMT-IIはほとんどの臓器・組織に存在し、重金属、グルココルチコイドなどで誘導合成されます。MTは一分子あたり7個の亜鉛と結合することができます。インビトロ実験から、溶液の亜鉛濃度が100 pM(神経細胞の細胞質濃度に相当する)の場合、MTは一分子あたり5個の亜鉛を結合したZn5MTと推定されます。

合成副腎皮質ホルモンであるデキサメタゾンをマウスやラットの腹腔内に投与し海馬MT合成を高めると、細胞外から細胞内に流入するZn2+の捕捉容量が増加することを明らかにしました。 MT合成によるZn2+の捕捉容量の増加は老齢動物でも観察されました。そして、MT誘導合成によりAβ1-42から遊離するZn2+を捕捉することができ、Aβ1-42による記憶障害、神経細胞死が阻止できることをはじめて明らかにしました。MT誘導合成はAβ1-42毒性を軽減することから、アルツハイマー病の予防・発症遅延に有効であると考えられます。残念ながら、デキサメタゾンは副作用もありアルツハイマー病の予防には使用できません。

私たちは、漢方薬である人参養栄湯をマウスやラットに経口投与すると、海馬MT誘導合成によりAβ1-42による記憶障害、海馬神経細胞死が予防できることがわかりました。さらに、ある植物に含まれる特定の成分により、同様にAβ1-42による記憶障害、海馬神経細胞死が予防できることがわかりました(未発表データ)。

ポイント 脳におけるメタロチオネインの誘導合成はアルツハーマー病の予防に有効と考えられる