12. 栄養素としての亜鉛ー老化との関係?ー

脳の成長にも亜鉛は必要であり、前述したように神経細胞のシナプス小胞にはグルタミン酸とともにZn2+を高濃度に含むものがあり、海馬苔状線維は100% Zn2+含有神経です。海馬、扁桃体にはZn2+含有神経が多く、情動を含む様々な記憶に関与します。妊婦の亜鉛不足が胎児に多大な影響を与えることは容易に想像ができます。また、脳には「臨界期」があります。生後の早い時期に、体験に応じて神経回路が柔軟に変化するタイミングですが、この時期に亜鉛摂取が不足すると学習能の低下など、重大で持続する悪影響が脳に及ぶことが動物実験で報告されています。

成人では亜鉛不足の悪影響は?というと、あります。成人でも血液中のZn2+は脳のバリアーである血液脳関門、血液脳脊髄液関門を通過して神経細胞やグリア細胞に運ばれます。放射性65Znを用いた検討から、脳においても亜鉛のターンオーバー(代謝回転)があり、極めてゆっくりでありますが、新旧亜鉛の入れ替わりがあります。脳全体の亜鉛濃度は成長後には変動はなくなりますが、ラットでは加齢に伴い脳脊髄液亜鉛濃度が上昇します。おそらく、ヒトでも脳細胞外液のZn2+濃度は加齢に伴い上昇すると推定されますが、この上昇はグルタミン酸作動性神経活動を含む脳活動と関与すると考えられます。一方で、後述するように脳細胞外液のZn2+濃度の上昇は加齢時の神経変性のリスクとなります。

ポイント 胎児期から老齢時まで亜鉛は脳や身体に供給される必要がある